〔第20問〕(配点:4)

次の【事例】に関する後記アからオまでの各【記述】を判例の立場に従って検討し,正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。(解答欄は,アからオの順に[№32]から[№36])

【事例】

甲は,別居している実弟Aとの間で,自己が所有するX市内の土地(以下「本件土地」という。)を代金3000万円で売却する売買契約を締結し,Aから代金全額の支払を受けたものの,本件土地の所有権移転登記は未了のままであった。

そこで,甲は,自己が経営する会社の資金繰りのため,自らが保管していた本件土地の登記済証を利用し,事情を知らないBに対して,本件土地に抵当権を設定するので,それを担保に1000万円を融資してほしい旨申し入れたところ,Bは,これを了承した。数日後,甲は,Bから1000万円の融資を受けた上,Aに無断で本件土地の抵当権設定登記を完了した。

X市の土木部長である乙は,本件土地を乙個人として購入したいと考え,甲に対して,その旨を申し入れた。甲は,乙に対して,本件土地は既にAに売却済みであるが,登記名義は自分に残っているので,代金2000万円で売却してもよい旨を伝えたところ,乙は,これを了承した。

そして,乙は,Y市内に時価700万円の農地(以下「本件農地」という。)を所有していたことから,本件土地の購入資金を調達するため,それまでにX市発注の公共工事の受注に際して,土木部長として便宜を図ってきた建築業を営むCに対して,本件農地を時価で買い取ってほしい旨を依頼した。Cは,本件農地にはそれまで買手が全く見付からず,乙が苦労していることを知りながら,かねてX市発注の公共工事の受注に際して乙が有利な取り計らいをしてくれたことに対する謝礼の趣旨に加え,時価であれば損をすることもないと考えて,乙の依頼を了承した。そして,Cは,乙と本件農地の売買契約を締結した上で,乙に現金700万円を手渡した。

その後,甲は,Aに無断で乙と本件土地の売買契約を締結し,乙から代金全額の支払を受けた上,本件土地の所有権が売買により乙に移転した旨の登記を完了した。

【記述】

ア.甲がAに無断で本件土地に抵当権を設定し,その旨の登記を完了したことについては,甲に横領罪が成立するが,Aは甲の実弟であるので,告訴がなければ公訴を提起することができない。[№32]

イ.甲が本件土地をAに無断で乙に売却し,所有権移転登記を完了したことについては,それ以前に甲がAに無断で本件土地に抵当権を設定し,その旨の登記を完了したことによって,犯罪の成立は妨げられないので,甲に横領罪が成立する。[№33]

ウ.乙は,本件農地を時価でCに売却したのであるから,乙がCから交付を受けた現金700万円は通常の経済取引に基づく不動産の購入代金であり,不正な利益としての賄賂には当たらないので,乙に収賄罪(収受)は成立しない。[№34]

エ.仮に,乙が,Cに対して,時価を超える1000万円で本件農地を購入するよう依頼したが,Cはこの依頼を拒否した場合,収賄罪と贈賄罪は対向犯として必要的共犯の関係にあるので,乙に収賄罪(要求)は成立しない。[№35]

オ.乙は,甲から本件土地が既にAに売却済みであることを知らされながら,Aに無断で本件土地を購入し,所有権移転登記を完了したのであるから,乙に横領罪の共同正犯が成立する。[№36]

№33

№34

№35

№32

№36