〔第9問〕(配点:4)

次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討し,正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。(解答欄は,アからオの順に[No.15]から[No.19])

ア.甲は,勤務先の事務室で1人で残業をしていたところ,使用中の電気ストーブから周囲の可燃物に誤って引火させた。甲は,その時点での消火作業は容易であったにもかかわらず,同室を含む勤務先建物が焼損することを認容して,消火作業をすることなく,同室から立ち去り,その結果,同建物が全焼した。その行為当時,同建物の他の部屋では甲の同僚が仮眠中であり,甲もそのことを認識していた。この場合,甲に既発の火力を利用する意思がなければ,現住建造物等放火罪は成立しない。[No.15]

イ.甲は,Vと2人きりのホテル客室で,その同意の下,Vに対し,覚醒剤を注射したところ,Vが体調の異変を訴え,錯乱状態に陥ったため,救急医療を要請する必要があることを認識し,その要請をしていれば,Vの救命は確実であったにもかかわらず,その要請をすることなく,Vを放置したまま同室から立ち去り,その結果,Vが死亡したが,甲に殺意はなかった。この場合,甲がVを放置した行為とVの死亡との間の因果関係に欠けることはなく,甲には,保護責任者遺棄等致死罪が成立する。[No.16]

ウ.甲は,深夜,自動車を運転中,路上で過失により通行人Vに同車を衝突させて,歩行不能の重傷を負わせた上,一旦Vを同車に乗せて,降雪中の周囲にひとけのない路上に移動し,Vに対し,医師を呼んでくるとうそを言って,Vを同車から降ろし,同車で同路上から立ち去ったが,甲に殺意はなかった。この場合,甲には,Vを保護する責任があり,保護責任者遺棄等罪が成立する。[No.17]

エ.甲は,自己の口座に振込先を誤った振込入金があったことを知ったが,銀行窓口において,窓口係員に対し,その受取人として上記の誤った振込入金があった旨を告知せずに,その払戻しを請求し,事情を知らない同係員をして,払戻しに応じさせた。この場合,甲には,上記の誤った振込入金があったことを告知する義務はなく,詐欺罪は成立しない。[No.18]

オ.甲は,面識のない他人のVと口論に及び,その首を絞めて窒息死させ,Vの死体をその場に放置して逃走した。この場合,甲には葬祭義務はなく,死体遺棄罪は成立しない。[No.19]

No.15

No.16

No.17

No.18

No.19