司法試験 / 刑法
2020年 司法試験 刑法 第3問 解説
- 正当防衛
解説
AI 生成この解説は AI が生成したものです。誤りが含まれる可能性があるため、条文・判例などの一次資料を必ず確認のうえ、最終的な判断はご自身で行ってください。
▸問題と選択肢
〔第3問〕(配点:2)
学生A及びBは,過剰防衛に関する次の【事例】について,後記【会話】のとおり議論している。
【会話】の中の①から④までの()内から適切なものを選んだ場合,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。(解答欄は,[No.4])
【事例】
Ⅰ.甲は,同じ居室にいた乙が机を押し倒してきたため,反撃として,同机を乙に向けて押し返した。これにより,乙は転倒し,左手中指の腱を断裂した。乙は,机の下敷きになっており,直ちに強い攻撃はできなかったが,体勢を立て直せば間もなく攻撃を再開できる状況であった。甲は,引き続き,防衛の意思で,必要な限度を超えて,乙の顔面を殴ったが,これにより乙に怪我は生じなかった。
Ⅱ.甲は,乙からいきなり殴られ,更に攻撃を加えられそうになったので,反撃として,乙の顔面を殴った。乙は転倒して頭部を地面に打ち付け,意識を失って動かなくなったが,腹が立っていた甲は,引き続き,専ら攻撃の意思で,倒れている乙の胸部を蹴り付け,肋骨骨折を負わせた。その後,乙は,頭部を地面に打ち付けた際に生じた脳内出血が原因で死亡した。
【会話】
学生A.Ⅰの事例で,甲が机を押し返した行為は,急迫不正の侵害に対する反撃だけど,その行為と乙の顔面を殴った行為との関係は,どのように考えるべきだろうか。
学生B.その点は,時間的・場所的な関係や甲の主観面等に照らし,①(a.別個の行為・b.一連一体の行為)と捉えるべきだろう。
学生A.そうすると,甲には,どのような犯罪が成立するだろうか。
学生B.甲には,②(c.過剰防衛としての傷害罪が成立する・d.暴行罪のみが成立する)だろう。
学生A.Ⅱの事例でも,甲が乙の顔面を殴った行為は,急迫不正の侵害に対する反撃であることに変わりないよね。甲には,どのような犯罪が成立するだろうか。
学生B.乙が意識を失って動かなくなっているのに,専ら攻撃の意思で蹴り付けているのだから,顔面を殴る行為と胸部を蹴り付ける行為の間には断絶があると思う。甲には,③(e.過剰防衛としての傷害致死罪が成立する・f.傷害罪のみが成立する)という結論が妥当だろう。
学生A.Ⅱの事例で,B君のように,両暴行の間に断絶があると解すると,④(g.違法性が否定されるべき行為が遡って違法と評価されることになる・h.専ら攻撃の意思で胸部を蹴り付けた場合の方が,防衛の意思で胸部を蹴り付けた場合より軽い罪が成立する)という問題が生じるのではないか。
学生B.その点は,量刑上考慮すれば足りるという説明が可能なのではないか。
- 1.①a③e
- 2.①b④g
- 3.②d③e
- 4.②c④g
- 5.③f④h正解
正解: 5
過剰防衛における量的過剰の評価枠組みを問う。第 1 暴行 (反撃) が単独では正当防衛の範囲内でも、後行の暴行が必要な限度を超えた場合、両暴行を 一連一体 とみて全体を 1 個の過剰防衛と評価するのか、両暴行を 分断 して別個に評価するのかが論点となる。
判例は、時間的・場所的接着性、侵害継続性、防衛意思継続性等に照らして判断し、侵害が消滅し甲が専ら攻撃の意思に切り替わった後の暴行については両暴行の間に断絶があるとして 1 個の過剰防衛の成立を否定する (最決平成20.6.25(過剰防衛・量的過剰事件)) 1。
事例 Ⅰ (① / ②)
乙は机の下敷きで一時的に攻撃できないが、体勢を立て直せば間もなく攻撃を再開できる状況であり、急迫不正の侵害は継続している。甲は引き続き 防衛の意思 で顔面を殴っており、時間的・場所的にも机を押し返した行為と接着している。
したがって両行為は ① b. 一連一体の行為 と捉えるのが相当。一連一体評価の結果、全体が必要な限度を超える反撃となるから、全体を 1 個の過剰防衛として評価する。生じた結果は左手中指の腱断裂 (机を押し返した行為による傷害結果) であり、② c. 過剰防衛としての傷害罪 が成立する (刑法 36 条 2 項により任意的減免) 2。よって ② d (暴行罪のみ) は誤り。
事例 Ⅱ (③)
乙は意識を失って動かなくなっており、もはや急迫不正の侵害は消滅している。甲は専ら攻撃の意思で胸部を蹴り付けており、防衛意思も切り替わっている。判例の射程に照らすと、第 1 暴行 (顔面殴打) と第 2 暴行 (胸部蹴り) の間には 断絶 があり、両暴行を 1 個の過剰防衛として評価することはできない。
第 1 暴行は単独で評価され、急迫不正の侵害に対する相当な反撃として 正当防衛 が成立し違法性が阻却される。乙の死亡結果は第 1 暴行による頭部打撲・脳内出血に起因し、第 2 暴行 (胸部蹴り = 肋骨骨折) と死亡結果との間には因果関係がないから、結果惹起行為が違法性阻却される以上、死亡結果について別行為 (第 2 暴行) を経由して帰属させる余地もない。よって傷害致死罪は成立しない。第 2 暴行は侵害消滅後の単独評価で、肋骨骨折を惹起した 傷害罪 のみが成立する。
よって ③ f. 傷害罪のみが成立する が正しく、③ e (過剰防衛としての傷害致死罪) は誤り。
事例 Ⅱ における断絶説の問題点 (④)
仮に甲が第 2 暴行も防衛の意思で行っていれば、防衛意思の継続により両暴行を一連一体と評価する余地が生じ、全体を 1 個の過剰防衛として 傷害致死罪 (ただし 刑法 36 条 2 項で任意的減免) が成立しうる。これに対し本問のように攻撃意思に切り替わると分断され、第 2 暴行は単独評価で傷害罪のみとなる。
| 第 2 暴行の意思 | 評価枠組 | 成立罪 |
|---|---|---|
| 防衛意思継続 | 一連一体 → 1 個の過剰防衛 | 傷害致死罪 (36 条 2 項で任意的減免) |
| 専ら攻撃意思 | 断絶 → 第 2 暴行単独評価 | 傷害罪のみ |
より悪質な「専ら攻撃の意思」の場合の方が、相対的に評価が緩い「防衛意思継続」の場合より 軽い罪 (傷害 < 傷害致死) が成立する という価値判断の逆転が生じる。これが ④ h の指摘する問題点。④ g (違法性が否定されるべき行為が遡って違法と評価される) は、むしろ第 1 暴行を一連一体評価で過剰防衛の一部とした場合の批判であり、本問の文脈 (両暴行の断絶を前提とした立場への批判) には当てはまらない。
正しい slot は ① b、② c、③ f、④ h。選択肢を見ると、③ f と ④ h の組合せを含むのは選択肢 5 のみ。
よって正解は 5。
Footnotes
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IK 法律事務所「過剰防衛とは?正当防衛との違いと行為の『一連一体』の最高裁判例」 https://ik-law.jp/case/keiji/seitou-bouei-kajou/ ; J-STAGE 公開論文「過剰防衛──一連の行為の違法評価について」 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcl/51/3/51_422/_pdf/-char/ja ↩
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Wikibooks「刑法第36条」 https://ja.wikibooks.org/wiki/%E5%88%91%E6%B3%95%E7%AC%AC36%E6%9D%A1 ; ベンナビ刑事事件「正当防衛の定義|成立する5つの条件と過剰防衛との違いについて」 https://keiji-pro.com/columns/10/ ↩