司法試験 / 刑法(短答)
2020年 司法試験 刑法(短答式) 第2問 解説
- 横領罪
- 判例
解説
AI 生成この解説は AI が生成したものです。誤りが含まれる可能性があるため、条文・判例などの一次資料を必ず確認のうえ、最終的な判断はご自身で行ってください。
▸問題と選択肢
〔第2問〕(配点:3)
横領の罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,誤っているものを2個選びなさい。(解答欄は,[No.2],[No.3]順不同)
- 1.甲は,乙からの委託に基づき,同人所有の衣類が入った,施錠されていたスーツケース1個を預かり保管していたところ,衣類を古着屋に売却して自己の遊興費を得ようと考え,勝手に開錠し,中から衣類を取り出した。この場合,遅くとも衣類を取り出した時点で不法領得の意思の発現と認められる外部的行為があったといえるから,甲には,横領罪が成立する。正解
- 2.甲は,乙と共に一定の目的で積み立てていた現金を1個の金庫の中に入れて共同保管していたところ,乙に無断でその現金全てを抜き取り,自己の遊興費に費消した。この場合,甲には,横領罪が成立する。正解
- 3.株式会社の取締役経理部長甲は,同会社の株式の買い占めに対抗するための工作資金として自ら業務上保管していた会社の現金を第三者に交付した。この場合,甲が,会社の不利益を回避する意図を有していたとしても,当該現金の交付が会社にとって重大な経済的負担を伴うもので,甲が自己の弱みを隠す意図をも有していたなど,専ら会社のためにしたとは認められないときは,甲には,業務上横領罪が成立する。
- 4.甲は,乙から某日までに製茶を買い付けてほしい旨の依頼を受け,その買付資金として現金を預かっていたところ,その現金を確実に補填するあてがなかったにもかかわらず,後日補填するつもりで自己の遊興費に費消した。この場合,甲がたまたま補填することができ,約定どおりに製茶の買い付けを行ったとしても,甲には,横領罪が成立する。
- 5.甲は,自己が所有し,その旨登記されている土地を乙に売却し,その代金を受領したにもかかわらず,乙への移転登記が完了する前に,同土地に自己を債務者とし丙を抵当権者とする抵当権を設定し,その登記が完了した。この場合,同抵当権が実行されることなく,後日,その登記が抹消されたとしても,甲には,横領罪が成立する。
正解: 1, 2
横領罪 (刑法 252 条 1 項) が成立するのは「自己の占有する他人の物」を不法に領得した場合に限られる。占有が委託者側にとどまる場合は窃盗罪 (刑法 235 条) となる。本問は (i) 占有の所在、(ii) 不法領得の意思の発現、(iii) 既遂時期の三点が論点。
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誤り。施錠されたスーツケースを預かった場合、判例・通説は「容器それ自体の占有は受託者にあるが、施錠された中身の占有は委託者に残る」と解する 1。そうすると衣類は乙の占有物であり、甲が勝手に開錠して取り出した行為は乙の占有を侵害する窃盗罪にあたる。「自己の占有する他人の物」を客体とする横領罪は成立しない。
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誤り。共同保管下にある金銭は、各共同保管者の単独占有ではなく共同占有に属する。一方の共同保管者が他方に無断で全額を抜き取る行為は、他方の共同占有を侵害するものとして窃盗罪が成立し、横領罪ではないと整理される 1。
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正しい。最決平13.11.5(国際航業事件) は、株式買占めに対抗するための工作資金として会社資金を第三者に交付した取締役経理部長の事案で、会社の不利益を回避する意図があったとしても、交付が会社にとって重大な経済的負担を伴い、自己の弱みを隠す意図等もあったなどの事情の下では、専ら会社のためにしたとはいえず、業務上横領罪 (刑法 253 条) における不法領得の意思があったと判示した。本肢の事情はこの判例の射程内であり、業務上横領罪が成立する。
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正しい。最判昭24.3.8(供出米業務上横領事件) は、不法領得の意思を「他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思」と定義し、行為時に事後補填の意思があっても横領罪の成立を妨げないとする。本問はそもそも「確実に補填するあてがなかった」とされており、買付資金として預かった現金 2 を遊興費に費消した時点で不法領得の意思は発現している。事後にたまたま補填できて約定どおりの買付ができたとしても、すでに成立した横領罪に影響はない。
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正しい。最判昭31.6.26(不動産二重売買・抵当権設定事件) は、自己所有不動産を第三者に売却して所有権を移転したが移転登記が未了であることを奇貨として、当該不動産につき他者のため抵当権を設定しその登記を了したときに横領罪が成立すると判示している。同判例は、抵当権設定登記の時点で横領罪が既遂に達するとした上で、その後に当該抵当権設定登記が抹消されたとしても、抹消行為が新たな横領罪を構成することはないと判示している。本肢の甲も、抵当権設定登記が完了した時点で横領罪が成立し、後にその登記が抹消されても、すでに既遂となった罪の成否に影響しない。
よって誤っているのは 1 と 2。
Footnotes
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橋爪隆「刑法各論の悩みどころ 第1回 窃盗罪における占有の意義について」法学教室 No.427 80頁以下 (2016) http://www.yuhikaku.co.jp/yuhikaku_pr/hougaku/files/2013/03/keihokakuron.pdf ; 「横領罪(12) 共同占有物を領得した場合は、横領罪ではなく、窃盗罪が成立する」 https://sumaho-study.com/embezzlement12/ ↩ ↩2
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使途を定められて寄託された金銭については特別の事情のないかぎり受託者は刑法 252 条にいう「他人の物」を占有するものと解される (最判昭26.5.25(使途指定金銭横領事件))。 ↩