司法試験 / 刑法
2019年 司法試験 刑法 第5問 解説
- 構成要件
- 判例
解説
AI 生成この解説は AI が生成したものです。誤りが含まれる可能性があるため、条文・判例などの一次資料を必ず確認のうえ、最終的な判断はご自身で行ってください。
▸問題と選択肢
〔第5問〕(配点:3)
次の各【見解】と後記の各【事例】を前提として,後記アからエまでの各【記述】を検討し,正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。(解答欄は,アからエの順に[№9]から[№12])
【見解】
A.行為当時,客観的に存在した全ての事情及び行為後に生じた事情のうち一般人が予見できた事情を判断の基礎とし,その行為から結果が発生することが相当であると認められる場合に因果関係を肯定する。
B.一般人が認識・予見できたであろう事情及び行為者が認識・予見していた事情を判断の基礎とし,その行為から結果が発生することが相当であると認められる場合に因果関係を肯定する。
C.行為の危険性が結果へと現実化したといえる場合に因果関係を肯定する。行為の危険性は行為時に存在した全ての事情を基礎として判断する。
【事例】
Ⅰ.甲は,乙の顔面を手拳で1回殴打した。その殴打は,それだけで一般に人を死亡させるほどの強さではなかったが,乙はもともと特殊な病気により脳組織が脆弱となっており,その1回の殴打で脳組織が崩壊し,その結果,乙が死亡した。
Ⅱ.甲は,乙の首をナイフで突き刺し,直ちに治療しなければ数時間のうちに死亡するほどの出血を来す傷害を負わせた。乙は,直ちに病院で適切な医療処置を受け,一旦容体が安定したが,その後,医師の指示に従わず安静に努めなかったため,治療の効果が減殺され,前記傷害に基づき死亡した。
Ⅲ.甲は,路上で乙の頭部を激しく殴打し,直ちに治療しなければ1日後には死亡するほどの脳出血を伴う傷害を負わせ,倒れたまま動けない乙を残して立ち去った。そこへたまたま通り掛かった無関係の通行人が,乙の腹部を多数回蹴って,内臓を破裂させ,数時間後に乙は内臓破裂により死亡した。
【記述】甲の行為と乙の死亡との間の因果関係については,
ア.Ⅰの事例で,行為当時,乙は特殊な病気により脳組織が脆弱となっていることを一般人は認識できず,甲も認識していなかった場合,A及びCの見解からは肯定され,Bの見解からは否定される。[№9]
イ.Ⅰの事例で,行為当時,乙は特殊な病気により脳組織が脆弱となっていることを一般人は認識できず,甲も認識していなかったが,甲はこれを認識できた場合,AからCまでのいずれの見解からも肯定される。[№10]
ウ.Ⅱの事例で,行為当時,乙が治療を受けた後,医師の指示に従わず安静に努めなくなることを一般人は予見できなかったが,甲は予見していた場合,Bの見解からは肯定され,A及びCの見解からは否定される。[№11]
エ.Ⅲの事例で,行為当時,乙が通行人に蹴られることを一般人は予見できず,甲も予見していなかった場合,AからCまでのいずれの見解からも否定される。[№12]
- 1正解
- 2
- 1
- 2正解
- 1
- 2正解
- 1正解
- 2
問題のリキャップ
因果関係について A説 (客観的相当因果関係説 = 客観説)・B説 (折衷的相当因果関係説)・C説 (危険の現実化説) の 3 つを与え、3 つの事例 (Ⅰ 脆弱な被害者への殴打 / Ⅱ ナイフ刺突後の治療中断 / Ⅲ 致命傷を負わせた後の通行人による独立行為) で因果関係の肯否がどう分かれるかを問う。各説の 基礎事情の取り方 を文言通りに当てはめて結論を出す純粋な学説問題。
正解: ア=1, イ=2, ウ=2, エ=1
三説の整理
- A 説: 行為時の客観的事情は すべて (一般人・行為者の認識可否を問わない) 基礎にする。行為後に生じた事情は 一般人が予見可能なもののみ 取り込む。
- B 説 (折衷説): 基礎は「一般人が認識・予見可能だった事情」+「行為者が現に認識・予見していた事情」。行為者の認識可能性だけでは足りず、現実に認識していたことが要件。
- C 説 (危険の現実化説): 行為の危険性は 行為時に存在した全事情 を基礎に判断 (認識可否を問わない)。あとは行為の危険が結果に現実化したかを評価する。
3 説の差は (1) 行為時客観事情を全部取るか (A・C は yes、B は一般人/行為者基準で絞る)、(2) 行為後の介在事情の扱い (A は一般人予見可能性で絞る、B は一般人または行為者の現実の認識・予見、C は危険現実化の枠組みで評価) の 2 点に集約される。
ア (Ⅰ事例 / 脆弱性を一般人も甲も認識せず): 正しい (1)
行為時に存在した「脳組織が脆弱」という事情をどう扱うかの問題。
- A 説: 行為時の客観的事情は認識可否を問わず全部基礎に取り込むので、脆弱性も基礎事情に入る。脆弱な被害者への殴打 → 脳組織崩壊 → 死亡は経験則上通常で 相当性肯定。
- B 説: 一般人認識不可・甲認識せず、なので脆弱性は基礎事情から落ちる。「通常の殴打 1 回」ベースで判定すると、それだけでは死を生じない以上 相当性否定。
- C 説: 行為時の全事情を基礎に危険性を測るので脆弱性込み。脆弱な被害者への殴打は死を生む危険を有し、それが現実化した → 肯定。
A・C 肯定、B 否定。本肢の判定通り、正しい。
イ (Ⅰ事例 / 一般人も甲も認識せず、ただし甲は認識できた): 誤り (2)
ア との違いは「甲に認識可能性があった」点だけ。ここで折衷説 (B) の文言「行為者が 認識・予見していた 事情」を厳密に読む必要がある。
- A 説: 客観事情として脆弱性を基礎に取り込む点はアと同じ → 肯定。
- B 説: 文言が「認識・予見していた」と過去形・完了形であり、要求しているのは行為者の 現実の認識・予見 である。認識可能性ではこの要件を満たさない。甲は実際には認識していなかった以上、脆弱性は基礎に入らない。一般人も認識不可だったので一般人ルートでも入らない → 否定。
- C 説: アと同じく行為時の全事情ベースで 肯定。
実際は A・C 肯定、B 否定。本肢の「ABC いずれからも肯定」は B の判定を誤っており、誤り。折衷説の「認識・予見していた」は現実の認識・予見であって認識可能性は含まない点が本問のキモ。
ウ (Ⅱ事例 / 治療中断を一般人予見不可、甲は予見): 誤り (2)
ナイフで首を刺し、それ自体で数時間内に死亡するレベルの致命傷を与えている事案。乙が医師の指示に従わず安静を欠いたため治療効果が減殺されたが、結局は 当該傷害に基づき 死亡している。
- A 説: 行為後事情である「治療中断」は一般人予見不可なので基礎事情から落ちる。介在事情を抜いた残りの基礎事情だけで判断すると、ナイフで首を刺し数時間内死亡レベルの致命傷 → 当該傷害に基づく死亡という経過は経験則上通常 → 相当性 肯定。
- B 説: 甲が現に予見していた事情として治療中断も基礎に入る。致命傷 + 治療中断 → 死亡は相当 → 肯定。
- C 説: 行為自体が数時間内死亡レベルの致命傷を作出している。被害者の不適切行動を介してではあるが、現実の死因は 当該傷害 であり、行為が作出した致命傷の危険が結果として現実化したと評価できる (大阪南港事件等の判例理論と同型の処理) → 肯定。
実際は A・B・C いずれも肯定。本肢の「B のみ肯定、A・C は否定」は 誤り。Ⅱ事例は甲の行為自体が致命傷であり、治療中断を基礎に取り込まなくても相当性 / 危険現実化が認められる点を見落とさせる肢。
エ (Ⅲ事例 / 通行人による蹴りを一般人も甲も予見せず): 正しい (1)
頭部殴打で「1 日後に死亡する」レベルの脳出血を負わせたが、現実には通行人が腹部を蹴って 数時間後に内臓破裂で死亡。死因は甲の行為が作出した脳出血ではない。
- A 説: 通行人の蹴りは行為後事情で、一般人予見不可だから基礎に入らない。基礎事情から介在事情を抜くと、甲の頭部殴打 (1 日後死亡レベル) → 数時間後の内臓破裂死、という結果は経験則上通常とは言えず、相当性 → 否定。
- B 説: 一般人予見不可・甲予見せず、いずれの経路でも基礎に入らない。同じく 否定。
- C 説: 行為の危険性 = 脳出血で 1 日後死。現実の死因 = 通行人の独立行為による内臓破裂で数時間後死。第三者の独立した行為が結果を引き起こしており、甲の行為の危険が結果に現実化したとは評価できない → 否定。
A・B・C いずれも否定。本肢の「ABC いずれからも否定」は 正しい。
解答
- ア: 1 (正しい)
- イ: 2 (誤り)
- ウ: 2 (誤り)
- エ: 1 (正しい)
3 説の文言を機械的に当てはめれば解ける。B 説 (折衷説) は行為者の現実の認識・予見を要求し、認識可能性では足りない こと、致命傷の事案では行為後に介在事情があっても A・C で因果関係が肯定されやすい ことの 2 点が本問の判定軸。