司法試験 / 刑法
2019年 司法試験 刑法 第9問 解説
- 違法性
- 判例
解説
AI 生成この解説は AI が生成したものです。誤りが含まれる可能性があるため、条文・判例などの一次資料を必ず確認のうえ、最終的な判断はご自身で行ってください。
▸問題と選択肢
〔第9問〕(配点:2)
被害者の承諾に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものはどれか。(解答欄は,[№18])
- 1.甲は,乙の承諾を得て,乙から借り受けた乙所有の重機を丙に転貸していたが,同重機の修理のため一時これを丙から預かった際,乙の承諾を得て,丙に無断で,自己の借金の返済として同重機を自己の債権者に譲渡した。この場合,甲には,横領罪が成立する。
- 2.甲は,自らが組長を務める暴力団の組員乙から,「暴力団を脱退したい。」との申出を受けたので,「落とし前として,指を詰めろ。」と言い,乙の承諾を得て,乙の右手小指の根元を出刃包丁で切断した。この場合,甲には,傷害罪は成立しない。
- 3.甲は,乙との不倫関係を清算しようと考え,真実は,乙と心中するつもりはないにもかかわらず,乙に対し,「あの世で一緒になろう。私も君の後を追って死ぬから。」と言って心中を持ちかけ,その旨誤信してこれを承諾した乙に毒薬を手渡したところ,乙がそれを飲んで死亡した。この場合,甲には,自殺関与罪が成立する。
- 4.甲は,知人乙から,「生活が苦しく刑務所に入りたいので,私から脅されたという事実をでっち上げて,私を告訴してほしい。」と依頼され,乙の承諾を得て,乙を脅迫罪で告訴した。この場合,甲には,虚偽告訴罪は成立しない。
- 5.甲は,自らが刑務官を務める刑務所で受刑中の成人女性乙と恋愛関係になり,乙の承諾を得て,勤務中,同刑務所内において,乙と性交した。この場合,甲には,特別公務員暴行陵虐罪が成立する。正解
問題のリキャップ
被害者の承諾が構成要件該当性または違法性を阻却するかは、(1) 保護法益の処分可能性 (個人的法益か国家的法益か)、(2) 承諾の有効性 (動機・態様・社会的相当性) の二段で考える。各肢で承諾の対象となる法益の性質と判例の判断枠組みを当てはめる。
正解: 5
1. 誤り: 所有者の承諾あり、横領罪不成立
乙 (所有者) の承諾を得て重機を譲渡している。刑法 252 条 の横領罪が保護するのは委託物の所有権であり、所有者である乙が処分に同意している以上、不法領得意思を観念できず横領罪は成立しない。丙は修理目的で甲に重機を一時預けた立場 (転借人かつ修理委託元) にすぎず、丙の承諾は所有権処分の効力に影響しない。「横領罪が成立する」は誤り。
2. 誤り: 暴力団脱退の指詰めは違法性阻却否定
承諾傷害について、最決昭55.11.13 は、傷害罪の成否は承諾の存在のみでなく「承諾を得た動機・目的、身体傷害の手段・方法、損傷の部位・程度など諸般の事情を照らし合わせて決すべき」とし、保険金詐取目的で過失運転致傷を装って同意の上で他の自動車に追突させた行為について違法性阻却を否定した1。判旨は判断枠組み (諸般の事情を総合) と「違法目的に利用するための承諾は違法性阻却の根拠とならない」点を確立 したもので、これを学説的に整理したのが社会的相当性論である。
この判断枠組みを当てはめると、暴力団脱退の制裁的儀礼として出刃包丁で右手小指根元を切断する行為は、動機 (反社会的勢力の指詰め慣行) からも手段・部位・程度 (永続的な身体機能の喪失) からも違法性阻却を認めるべき事案ではなく、乙の承諾は違法性阻却の根拠とならない。傷害罪は成立する。「傷害罪は成立しない」は誤り。
3. 誤り: 偽装心中で死亡させた場合は殺人罪
追死の意思がないのに被害者を欺罔し、追死すると誤信させて毒物を飲ませ自殺させた事案について、最判昭33.11.21 は、被害者の同意は「真意に添わない重大な瑕疵ある意思」であり同意としての効力を持たないとして、刑法 202 条 の自殺関与罪ではなく 刑法 199 条 の 殺人罪 の成立を認めた2。
本肢は甲が真実心中するつもりがないのに乙を欺き毒薬を手渡して死亡させた事案で、判例の射程に正面から入る。成立するのは殺人罪であって自殺関与罪ではない。「自殺関与罪が成立する」は誤り。
4. 誤り: 虚偽告訴罪は国家的法益、被告訴人の承諾で阻却されない
刑法 172 条 の虚偽告訴罪は、国家の審判作用 を主たる保護法益とする犯罪というのが通説 (副次的に被告訴人の利益も保護されるとされるが、主たる法益は国家的法益)。被告訴人個人が処分できる法益ではないため、虚偽告訴の対象とされる本人 (乙) の承諾があっても違法性は阻却されず、虚偽告訴罪は成立する。「虚偽告訴罪は成立しない」は誤り。
5. 正しい: 刑務官と受刑者の性交は陵虐行為
刑法 195 条 1 項の特別公務員暴行陵虐罪は、刑務官等が職務を行うに当たり被拘禁者に暴行・陵虐の行為をした場合に成立する。東京高判平15.1.29 (判時1835号157頁) とされる留置場看守姦淫事件は、留置場の看守が被留置者と姦淫した行為について、被留置者の同意があっても「陵虐若しくは加虐の行為」に該当するとして同罪の成立を認めた3。被留置者・受刑者は刑務官の支配下にあり身体の自由が拘束された状態であって、職務上の優越的地位の下で対等な意思決定を行いうる関係にないため、形式的な「承諾」があっても陵虐行為性は否定されない。本問もこの射程に入り、特別公務員暴行陵虐罪が成立する。
よって正解は 5。
Footnotes
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東京高判平15.1.29 は、courts.go.jp 一次情報 (判決原文 URL) が本稿執筆時点で特定できず判例 DB 未登録。判時1835号157頁 を出典として CiNii Research の最新判例批評(74) https://cir.nii.ac.jp/crid/1520854805119801728 が判旨内容を「被留置者の同意を得ていても特別公務員暴行陵虐罪にいう『陵虐若しくは加虐の行為』に該当する」と整理し、Legalus「特別公務員暴行陵虐罪と被害者の承諾」 https://legalus.jp/criminal/ed-2725 でも同判決の射程が解説されており、複数二次資料で年月日・出典・判旨が一致。courts.go.jp で原文 URL が確定したら別途 add-precedent 予定。 ↩